2007年11月10日

頭脳勝負

先日すこし触れた、渡辺竜王の新書をちょっとご紹介。

すでにいくつかのブログでも評判になっている通り、いままでになかった将棋の本であり、非常に良い出来に仕上がっています。特に棋力のそれほど高くない方に、あるいは(将棋は指すけど)将棋界のことをよく知らない方に、ぜひおすすめしたい一冊です。

読んでみてまず「対局しているときに棋士が考えていること(指し手の部分も含めて)」を伝えるのに腐心しているな、という印象を受けました。これは強い人ほどかえって難しい分野であり、僕自身も常々やってみたいと考えていることです。だから僕が言葉にしたかった内容もたくさん含まれていて、ちょっと残念な気持ちもありました。でもタイトル戦の描写などは彼でなくては書けない内容ばかりなので、やっぱり僕には無理ですね。

うまく自分の好きなスポーツにたとえていたりとか、話の持って行き方がうまいのにも感心しました。将棋の話は、他の世界の話に置き換えるとわかりやすくなる、というのは僕もよく意識しているところです。ブログなどでもそういう書き方はあまりしたことがなかったはずなのに、たいしたものですね。
パソコンの前で数時間考え込んでしまうこともありました
と言うだけあって、苦労のあとがうかがえます。


相変わらずというか、思い切った発言もたくさんしているのは興味深いところです。以前から言われているようなことであっても、並の棋士が言うのと竜王が言うのでは意味合いが違います。特に順位戦に関する話のくだりは、(内容的にはむちゃくちゃ真っ当なんですが)よくここまで書いたなあ、と思いました。

ということで引用しておきます。
様々な意見が出ているのに具体的な議論に至らないのは、「どんな制度でも勝つ人は勝つんだから、細かいことを決めるのは見苦しい」という「棋士感覚」が根底にあるからかもしれません。確かに、何もかもきちっと決めてしまうのは面白くないかもしれませんし、順位戦制度は長年続いてきている伝統あるものですが、そろそろ少しは改善しても良いのではないかと感じています。

たしかに、そういう棋士感覚はいたるところに顔を覗かせています。制度の問題とは本来何の関係もないはずなんですけどね。
まあそれはさておくとしても第一人者がここまではっきり書いていて、ほうっておくわけにはいかないのでは?とは思います。


他では「スポーツを観るように将棋も」という項は非常に印象に残りました。ほかに「無責任に」という表現も出てきますが、ようは「分かった気になって」「勝手な視点で」楽しんでほしい、というところでしょうか。まったくその通りですね。

僕はその中で常々「技術の普及」をしたいと思っているので、そんな人たちの理解をちょっと手助けしてあげられたらな、ということは思います。でも、分からないけど観る人、分かった気になって観る人、分かろうとして観る人、いろんな人がいていいですよね。

まあそういうわけで、ぜひご一読ください。


最近棋士の新書が増えている、とある人に言われました。たしかにそうですね。将棋そのものでなく、将棋界とか、棋士とか、そういったところに注目が集まっている証拠ではないかと思います。そうした流れに自分も寄与したい、と思って日々いろんなことを考えたり書いたりしています。
posted by daichan at 21:56| Comment(5) | TrackBack(1) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年11月07日

女流関連

久々に書きたいことがまとめて出てきたので、3つほど。

その1。先日の女流王位戦最終局ですが、僕自身あとで気づいたんですが解説会がなかったのは残念でした。
数年前、たしか王位戦紅白リーグの最終日一斉対局だったと記憶しているのですが、女流棋士による女流対局の解説会が行われたことがありました。女流棋士会主催で解説会をするのは初めてということで、盛況だった記憶があります。
女流の対局に何かと注目が集まっている時機ですから、今回のような大きな一番では、ぜひまたやってほしかったと思いました。
女流棋士会もLPSAも、いろいろ新しい試みをたくさん打ち出していますが、まずは対局を見てもらうということは、これからも大切にしてほしいと思います。

その2。
昨日は順位戦の日にしては珍しく、女流の対局が2局あったのですが、その対局者4人が偶然にも全員LPSAの所属でした。こういうときはLPSAのほうで対局しても良いのでは?とこれがまず素朴な疑問。多少のハードルはありそうですが、徐々にでも実現してほしいですね。
考えられるメリットとして、対局場所が流動化(と言ってもたいしたことはないですが)すると、それだけ対局がファンの目に触れる可能性が高くなります。あくまで可能性ですが。

その3。大和証券杯に関して。
実はうっかり読み落としていたのですが、今度始まる女流戦は、実は公式戦だったんですね。なんとなく対抗戦の延長のような感じで考えていたので、ふと気づいてちょっとびっくりしました。
数人の棋士と話したのですが、選抜基準にあいまいなところがある(それ自体は僕は悪いことではないと思います)のに公式戦というのは、ちょっと妙な感じがしました。公式戦である以上は、あまり不公平感を生じさせないほうが良いと思いました。
ちなみに少し似た感じの棋戦で達人戦があります。これは非公式戦です。

それはさておき、僕は1回戦第1局の解説役を務めることになっています。11月18日(日)20時〜ですので、お見逃しなく。


前にもどこかで書きましたが、女流棋士はこと棋譜・対局記事の露出という点に関しては、男性よりも恵まれている意味があります。だからこそこの時期に、特に若手は頑張って強くなってほしい、と続けたはずですが、その意味ではこの大和証券杯とかはまさに格好の機会です。選ばれた若手には、ぜひタイトルホルダーをなぎ倒す活躍を見せてほしいと期待しています。


最後におまけ。先日のファミリーカップ、動画が順次アップされているようです。特に中倉姉妹は必見ですよ。

posted by daichan at 18:14| Comment(1) | TrackBack(0) | 意見・主張 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年11月04日

囲碁フェスタ

先週行った囲碁フェスタのことについて書きます。来年も行われるかもしれませんので、興味のある方はIGO AMIGOのHPをチェックしましょう。

僕は囲碁は初心者(たぶん7,8級)で、中学高校時代にすこしやったことがある程度です。道場だとか大会とかイベントとかには全く行ったことがなくて、一度参加してみたいとは思っていたのですがきっかけがない状態でした。今回たまたま知人に誘っていただいたのと、実際にウェブサイトを見てみると非常に興味を引かれる内容だったので、参加してみることにしました。「四千年間、なかった」っていいキャッチフレーズですよね。

将棋もそうだと思うのですが、初めてどこかに出かけていくというのはなかなか勇気がいるものです。思えばバックギャモンのときもそうでしたし、今回もどんな感じか全く分からないので、行くまではけっこうドキドキしました。参加してしまえばたいがいは楽しめるものなんですが、最初の一歩は大変です。だからもし周りに「参加してみたいけど、なんとなく不安」という人がいたら、ぜひ声をかけてあげてほしいと思います。そういうのって、我々の努力ももちろんあるのですが、身近な人がきっかけをくれるのが一番だと思うんですね。

もちろん「面白そうだな」と思わせることも大事だし、そして実際の中身も大事なんですが、きっかけはごく身近な「輪」なんだなと、実感しました。この「IGO AMIGO」という集まりは、主に愛好者の少ない20〜30代に囲碁を広めていこうという活動をされているそうです。スタッフもほとんどが若い人ばかりで、若者同士の輪を広げていこうとしている様子がうかがえました。

囲碁は普及の組織化がすごく進んでいると感じ、それは非常に羨ましい点の一つです。正直言ってあれだけの数のボランティアスタッフを動員してイベントをやるなんて反則級です(笑)将棋ではあんなことはなかなか難しいでしょう。
あれだけのイベントで参加費2000円はかなり安いと感じましたが、それはボランティアのスタッフがたくさんいたからこそ実現できたのだろうと思います。

「普及」というのは文字通り広く行き渡らせることで、それには時間も労力もかかります。それには熱意ある若者の力が不可欠なんだな、と改めて思いました。僕も将棋を広めたい気持ちはもちろんありますが、正直なところあそこまでの熱意はありません。ですが自分のできる範囲で、頑張ろうと思います。

当日の話に戻って、会場に着いたのが1時すぎ。あまりの広さにびっくり。なんとなく100人規模かなあと予想してたんですが、数百人はいましたね。これはすごいことです。
最初に渡されたのがクイズの用紙。後で出てくる「囲碁マニア王決定戦」の予選だったようです。これを提出して、さらに指導対局の申し込みをしてから(笑)、開会式。ギャモン界ではおなじみの武宮先生がダンスを踊っていてかなりびっくり。合間に一緒に来た友人と数局。僕には19路盤は大きすぎるので、9路盤や13路盤のほうが好きです。囲碁は大きさやハンデが自由自在なので、初心者に優しいゲームと言えます。その代わり、勝ち負けが分かりにくいという欠点があります。このあたりはお互いに「他人の芝生は青い」って感じなんですかね。

そのあといろんなブースを回って講座を物色。棋力ごとにいくつかのクラスに分かれて、ほぼひっきりなしにやっていたようです。やっぱりというか、僕が見た限りでは万波佳奈さんが一番人気だったかな。彼女は可愛いだけでなくて、話がとてもうまいですね。彼女に限らず、囲碁の棋士はみんな壇上に上がってもすごくハキハキしていて、話し慣れているような気がしました。将棋にも話のうまい人はたくさんいますが、負けている気がします。
ちなみに万波さんの講座は自分の実戦の解説で、僕には難しそうだったのでスルー。タイトルは忘れましたが「石のつながり方」のような講座を見ました。強くなったかは不明です(笑)小さい子どもがテキパキを解答していて感心、とこれはどこの世界でも同じですね。

どの時間でもどの棋力の人でも楽しめるように工夫されているのはすごいなと思ったのですが、一つ残念だったのは声がよく聞こえないこと。仕切りがないのでひょいっと覗けるのはいいんですが、会場のアナウンスで、先生の声が聞こえないんですよね。みんなメガホンでしゃべってたけど、声が嗄れなかったか心配です。たぶんどうするか悩んだんだと思いますが、そのせいで講座来なかった人はけっこういたんじゃないかなーと推測。客はわがままですからね(笑)

ところでこれを将棋に置き換えてみると。
たとえばA級最終日の大盤解説会は毎年大盛況で、二部屋に分かれてやっていることが多いんですが、棋力の高い人向けの解説をする部屋と、そうでないのと、分けてみるのはどうだろう。というようなことを思いました。実際にうまく棋力に合わせてできるかは難しいですが。

そうこうするうちに指導対局の抽選はハズレ。そのあと真ん中の開会式をやったステージで「マニア王決定戦」。レベル高すぎて唖然。ようはクイズなんですが、よくもまあこんなの考えたなあと。そして知ってるなあと。これは将棋でも簡単にマネできそうですけど、どうですか某教授に某マニアさん、某マニハルさん(笑)
こういうのって一歩間違うと寒い企画になりかねない気もするんですが、僕は見ていてかなり楽しめました。実際、帰りがけに囲碁・将棋チャンネルの人に「何が一番面白かったですか?」と聞かれたのでそう答えました。僕のこと知ってたのかどうか(笑)

他にも碁石つかみ取りとか、お約束のルールを全く知らなくても楽しめるコーナーもあったようです。個人的にはそういうコンセプトのものはあまり好きではないのですが、実際のところやっぱりルールを知らない人たちにも楽しさを知ってもらうことは重要でしょうね。

最後のトリが10秒リレー碁。内容はさっぱり分からないので、梅沢さんのトークを楽しむ。10秒将棋というのは悪手は出るにしても、指すだけならそんなに難しいことではありません。だからこそ、「目隠し10秒」なんて企画が出るわけです(これは大変です)。10秒+リレーというのは見たことがないので、どれぐらい大変なものなのかやってみたい気はします。
このコーナーは、いかんせん内容が分からないので、弱いなりになんとなく意味を理解しながら見たい僕には、それほど面白いものではなかったです。でも壇上の棋士の皆さんは大騒ぎしてて楽しそう(苦しそう?)でしたから、きっと企画としては成功だったと思います。

今年はAISEP日本文化祭りなど、新しいイベントに参加する機会がけっこうありました。それらは皆若い人たちが中心となって企画・運営したものばかりです。将棋・囲碁にとどまらずいろいろな分野で、既存の枠にとらわれない新しい試みが求められているということなのだろうと解釈しています。僕はそういったことを自分でやるのは得意なほうではないですが、ときには何か、関わりが持てたらと思っています。新しいことというのは苦労もありますが、ほとんど例外なく面白いものです。改めてそう思えたことは、今回の大きな収穫でした。

あと内容とは直接関係ないんですが、プロがみんなTシャツで講座やったり指導やったりしてるのが、普段そちら側の人間としては非常に新鮮な感じでした。と言うのも、スタッフ・プロみんながその日のために作ったと思われるTシャツでおそろいなんですね。若者向けのイベントなので、カジュアルな感じでとても良いと思いました。将棋祭りなんかでもスーツ姿の棋士しか見たことない人がほとんどだと思うんですが、ときにこういうのも良いのではないでしょうか。こうしたちょっとしたことが、案外新しいことだったりするものです、

もう一つの収穫は、囲碁をやると初級者の気持ちがよく分かる、ということです。僕は石を取られないようにするのは比較的得意なんですが、「取られても良い」ことが分からなかったり、あるいはシボリやウッテガエシのような、取らせて取り返したり追い詰めていったりという手をうっかりすることがよくあるようです。それを友人に言うと「将棋ならできるのに」と笑われますが、そうは言ってもそれができないから初級者なわけです。囲碁をやると弱い人が分からないことが分かるので、なんとなく指導に役立つような気がしています。だから囲碁は、あんまり強くならなくて良かったかもしれません。
posted by daichan at 00:45| Comment(5) | TrackBack(1) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする