この問題も大切なことですが、実はテレビ棋戦に関しては以前から、より大きな問題だと思っていることがありました。それは「感想戦」です。ちょうど良い機会なので、今月はテレビ棋戦の感想戦について述べてみたいと思います。
将棋のテレビ放映において一番難しいのは、いつ終わるか、どのぐらい時間がかかるかが、わからないことではないかと思う。現在将棋界のビッグタイトルである竜王戦・名人戦では衛星放送による中継が行われているが、終局前後の時間帯を映してほしいというファンの声はいつも耳にする。しかしそれがいつになるかというのは、1時間程度の幅をもってしても正確に予想するのは難しい。そういうわけで、最終的にはダイジェストに頼るのは仕方ない意味があるのだろうと思う。
現在行われているNHK杯・銀河戦も、おそらくそういう事情からだろうと思うが、すべて録画であり、これを生放送でやるのは難しいのだろうと思う。一方、生放送でないことによって、工夫できる部分もあるのではないか?と僕は感じている。ちょうど、時間がたってから掲載される観戦記と同じように。それが「感想戦」の部分なのである。
感想戦は何のためにやるのか?と言われると、棋士にとっては何よりも勉強のためであろうと思う。自分の指し手のどこが悪かったのか、研究することはプロアマ問わず、上達のためにとても大切なことである。同時に、その将棋のポイントとなる部分はどこだったのか、どの手が最終的に敗着になってしまったのか、そうしたことが検討によって明らかになっていく。だからたとえば観戦記を書く人にとっても、感想戦は最も見逃せない部分になる。
ではテレビ放映においてはどうだろうか?と考えたとき、残念ながら現在は、放送時間の穴埋めに過ぎなくなっているように思う。これを解決すれば、もっと番組を楽しめるファンの人は増えるのではないだろうか。
番組を何度かでも見たことがある人ならお分かりだと思うが、感想戦はいつも放映されているわけではない。対局を終わりまで流して、時間が余った場合のみ、その一部が放映される。僕の印象では、5〜10分ほど残るケースが多いような気がするが、時間がない場合もけっこうある。あくまでもオマケなのである。まあオマケなのは当然としても、それがいつも「感想戦の途中ですが、そろそろお時間となりました」と尻切れトンボになってしまうのは、見ていて残念でならない。
前述したように感想戦は、その将棋のポイントが明らかになっていく場である。これを、見ている人に届けない手はないと思うのだがどうだろうか。
具体的には、まず感想戦は基本的に全部収録しておいて、できればポイントの部分をうまく編集して流すようにする。これだけでもずいぶん違うと思う。ただ、プロ同士の将棋の会話というのは、お互いの了解のもとにどんどん進んでいくので、見ているほうにはものすごく難しい。終局後なのだから、見ている人を意識してしゃべるべきだという気もするが、現実に対局直後に、そこまで気を遣うというのはけっこう難しい。
というわけでもうひとつ。感想戦の後に、その感想戦のまとめを、解説者が大盤で簡単に解説する。2分もあれば十分だと思うが、その枠はあらかじめ用意しておいて、感想戦が放映される・されないに関わらず行う。こうすれば、見ている人に一局のポイントが分かりやすく伝えられて良いのではないかと思う。消化不良な感想戦で終わるよりも、番組がずっと引き締まるのではないだろうか。
そもそも解説者というのは、対局者が何を考えているのか、何を考えて指したのかを伝えるのが重要な役割だと僕は考えている。これすなわち「翻訳者」なのである。感想戦というのはそのままでは難しいから、やはり翻訳が必要であるというのは、極めて自然な話であろうと思う。
実はいまでも銀河戦のほうでは、これと似たようなことがときどきある(NHKのほうは解説したことがないのでわからない)。それは、時間が微妙に数分残った場合で、この場合は解説者は感想戦に加わらず、その1局のポイントを口頭でしゃべって終わりになる。で、それはなぜか感想戦の前に撮ってしまうらしい。僕が上で書いたのは、これを感想戦の後にすれば、そしてそれを常にやればいいのではないかという、ただそれだけの話なのである。たったそれだけだが、そうすれば対局者は何を思ってその手を指したのかとか、そういう情報を伝えることができる。これが大きいのではないかと、以前から思っていたのでこの機会に書いてみた次第です。
【関連する記事】
感想戦のまとめの時間、一視聴者として
直ぐにでも見てみたいと思いました。
テレビ局との話し合い等多々難題はある
かと思いますが、実現を期待してみたく
思います。
ここは、是非、解説者に頑張って欲しい。対局者に求めるのはむずかしいように思います。
>終局後なのだから、見ている人を意識してしゃべるべきだという気もするが、
田中寅さんがやっているときは、対局者だろうが解説者だろうが「ボクたちだけがわかってもしょうがないから並べましょ」みたいなことを言われますね。
あの姿勢には常々感心いたします。
プロ同士だと口だけで充分なのでしょうが、視聴者にはさっぱりわかりませんから。
感想戦は正直私の棋力(ちなみに将棋倶楽部24中級者)では分からない事も多々あります。指し手が早過ぎてついていけない時もあります。解説としては難解あるいは不充分に思える時もあります。
ただNHK杯に限れば、それは「アリ」という気がします。対局終了すぐの対局者の感情の生々しさが伝わるからです。早口で読み筋をまくしたてる者、無口な者、無愛想な者etc…。しかし、その姿は良くも悪くも生々しいです。
「解説」としては不充分な「感想戦」でも、それはまた見ていて心打たれるものがあります。
底歩さんのご意見は面白いですね。たしかに、対局者のナマの声が聞ける場というのは、貴重なものと思います。
何にせよ、将棋番組もず〜っと同じ見せ方ではなく、いろいろと工夫して、試行錯誤してほしいなと思います。
現在は銀河線でもNHK杯でも、千日手などで放送枠に収まらない超長手数になった場合は一部途中を指し手の再現だけにとどめるよう、編集しています。
であるなら、個人的には囲碁将棋チャンネルで行っている棋譜の解説(1時間枠)のようにして解説するのもいいのではと思います。
感想戦については、以前、『将棋世界』誌上で田辺氏がコラムに書いていたように思います。
私は感想戦とは、解説者もフォローできない、対局者のより内面の部分が現れるところではないかと思います。
本文にあるよう、将棋の対局は持ち時間が決まっていても終局の時間を予想することはきわめて困難です。
そして決められた時間枠で感想戦まで充実させて放送することもやはり難しいと思います。
そこでいっそのこと全て編集し、時間に余裕があるようなら、急所の局面ではリアルに撮影した映像を時間をとってはさむ、というのはどうでしょう?
長々と失礼しました。
ただ、やはり見る人にとっては「臨場感」も大事な要素の一つかな、という気はしています。
将棋が極端に長くなってしまった場合、えてして中終盤のおもしろい部分が削られがちなので、そのあたりはもうすこし工夫したほうがいいのでは、と思っています。