すでにいくつかのブログでも評判になっている通り、いままでになかった将棋の本であり、非常に良い出来に仕上がっています。特に棋力のそれほど高くない方に、あるいは(将棋は指すけど)将棋界のことをよく知らない方に、ぜひおすすめしたい一冊です。
読んでみてまず「対局しているときに棋士が考えていること(指し手の部分も含めて)」を伝えるのに腐心しているな、という印象を受けました。これは強い人ほどかえって難しい分野であり、僕自身も常々やってみたいと考えていることです。だから僕が言葉にしたかった内容もたくさん含まれていて、ちょっと残念な気持ちもありました。でもタイトル戦の描写などは彼でなくては書けない内容ばかりなので、やっぱり僕には無理ですね。
うまく自分の好きなスポーツにたとえていたりとか、話の持って行き方がうまいのにも感心しました。将棋の話は、他の世界の話に置き換えるとわかりやすくなる、というのは僕もよく意識しているところです。ブログなどでもそういう書き方はあまりしたことがなかったはずなのに、たいしたものですね。
パソコンの前で数時間考え込んでしまうこともありました
と言うだけあって、苦労のあとがうかがえます。
相変わらずというか、思い切った発言もたくさんしているのは興味深いところです。以前から言われているようなことであっても、並の棋士が言うのと竜王が言うのでは意味合いが違います。特に順位戦に関する話のくだりは、(内容的にはむちゃくちゃ真っ当なんですが)よくここまで書いたなあ、と思いました。
ということで引用しておきます。
様々な意見が出ているのに具体的な議論に至らないのは、「どんな制度でも勝つ人は勝つんだから、細かいことを決めるのは見苦しい」という「棋士感覚」が根底にあるからかもしれません。確かに、何もかもきちっと決めてしまうのは面白くないかもしれませんし、順位戦制度は長年続いてきている伝統あるものですが、そろそろ少しは改善しても良いのではないかと感じています。
たしかに、そういう棋士感覚はいたるところに顔を覗かせています。制度の問題とは本来何の関係もないはずなんですけどね。
まあそれはさておくとしても第一人者がここまではっきり書いていて、ほうっておくわけにはいかないのでは?とは思います。
他では「スポーツを観るように将棋も」という項は非常に印象に残りました。ほかに「無責任に」という表現も出てきますが、ようは「分かった気になって」「勝手な視点で」楽しんでほしい、というところでしょうか。まったくその通りですね。
僕はその中で常々「技術の普及」をしたいと思っているので、そんな人たちの理解をちょっと手助けしてあげられたらな、ということは思います。でも、分からないけど観る人、分かった気になって観る人、分かろうとして観る人、いろんな人がいていいですよね。
まあそういうわけで、ぜひご一読ください。
最近棋士の新書が増えている、とある人に言われました。たしかにそうですね。将棋そのものでなく、将棋界とか、棋士とか、そういったところに注目が集まっている証拠ではないかと思います。そうした流れに自分も寄与したい、と思って日々いろんなことを考えたり書いたりしています。