2007年11月07日

女流関連

久々に書きたいことがまとめて出てきたので、3つほど。

その1。先日の女流王位戦最終局ですが、僕自身あとで気づいたんですが解説会がなかったのは残念でした。
数年前、たしか王位戦紅白リーグの最終日一斉対局だったと記憶しているのですが、女流棋士による女流対局の解説会が行われたことがありました。女流棋士会主催で解説会をするのは初めてということで、盛況だった記憶があります。
女流の対局に何かと注目が集まっている時機ですから、今回のような大きな一番では、ぜひまたやってほしかったと思いました。
女流棋士会もLPSAも、いろいろ新しい試みをたくさん打ち出していますが、まずは対局を見てもらうということは、これからも大切にしてほしいと思います。

その2。
昨日は順位戦の日にしては珍しく、女流の対局が2局あったのですが、その対局者4人が偶然にも全員LPSAの所属でした。こういうときはLPSAのほうで対局しても良いのでは?とこれがまず素朴な疑問。多少のハードルはありそうですが、徐々にでも実現してほしいですね。
考えられるメリットとして、対局場所が流動化(と言ってもたいしたことはないですが)すると、それだけ対局がファンの目に触れる可能性が高くなります。あくまで可能性ですが。

その3。大和証券杯に関して。
実はうっかり読み落としていたのですが、今度始まる女流戦は、実は公式戦だったんですね。なんとなく対抗戦の延長のような感じで考えていたので、ふと気づいてちょっとびっくりしました。
数人の棋士と話したのですが、選抜基準にあいまいなところがある(それ自体は僕は悪いことではないと思います)のに公式戦というのは、ちょっと妙な感じがしました。公式戦である以上は、あまり不公平感を生じさせないほうが良いと思いました。
ちなみに少し似た感じの棋戦で達人戦があります。これは非公式戦です。

それはさておき、僕は1回戦第1局の解説役を務めることになっています。11月18日(日)20時〜ですので、お見逃しなく。


前にもどこかで書きましたが、女流棋士はこと棋譜・対局記事の露出という点に関しては、男性よりも恵まれている意味があります。だからこそこの時期に、特に若手は頑張って強くなってほしい、と続けたはずですが、その意味ではこの大和証券杯とかはまさに格好の機会です。選ばれた若手には、ぜひタイトルホルダーをなぎ倒す活躍を見せてほしいと期待しています。


最後におまけ。先日のファミリーカップ、動画が順次アップされているようです。特に中倉姉妹は必見ですよ。

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2007年11月04日

囲碁フェスタ

先週行った囲碁フェスタのことについて書きます。来年も行われるかもしれませんので、興味のある方はIGO AMIGOのHPをチェックしましょう。

僕は囲碁は初心者(たぶん7,8級)で、中学高校時代にすこしやったことがある程度です。道場だとか大会とかイベントとかには全く行ったことがなくて、一度参加してみたいとは思っていたのですがきっかけがない状態でした。今回たまたま知人に誘っていただいたのと、実際にウェブサイトを見てみると非常に興味を引かれる内容だったので、参加してみることにしました。「四千年間、なかった」っていいキャッチフレーズですよね。

将棋もそうだと思うのですが、初めてどこかに出かけていくというのはなかなか勇気がいるものです。思えばバックギャモンのときもそうでしたし、今回もどんな感じか全く分からないので、行くまではけっこうドキドキしました。参加してしまえばたいがいは楽しめるものなんですが、最初の一歩は大変です。だからもし周りに「参加してみたいけど、なんとなく不安」という人がいたら、ぜひ声をかけてあげてほしいと思います。そういうのって、我々の努力ももちろんあるのですが、身近な人がきっかけをくれるのが一番だと思うんですね。

もちろん「面白そうだな」と思わせることも大事だし、そして実際の中身も大事なんですが、きっかけはごく身近な「輪」なんだなと、実感しました。この「IGO AMIGO」という集まりは、主に愛好者の少ない20〜30代に囲碁を広めていこうという活動をされているそうです。スタッフもほとんどが若い人ばかりで、若者同士の輪を広げていこうとしている様子がうかがえました。

囲碁は普及の組織化がすごく進んでいると感じ、それは非常に羨ましい点の一つです。正直言ってあれだけの数のボランティアスタッフを動員してイベントをやるなんて反則級です(笑)将棋ではあんなことはなかなか難しいでしょう。
あれだけのイベントで参加費2000円はかなり安いと感じましたが、それはボランティアのスタッフがたくさんいたからこそ実現できたのだろうと思います。

「普及」というのは文字通り広く行き渡らせることで、それには時間も労力もかかります。それには熱意ある若者の力が不可欠なんだな、と改めて思いました。僕も将棋を広めたい気持ちはもちろんありますが、正直なところあそこまでの熱意はありません。ですが自分のできる範囲で、頑張ろうと思います。

当日の話に戻って、会場に着いたのが1時すぎ。あまりの広さにびっくり。なんとなく100人規模かなあと予想してたんですが、数百人はいましたね。これはすごいことです。
最初に渡されたのがクイズの用紙。後で出てくる「囲碁マニア王決定戦」の予選だったようです。これを提出して、さらに指導対局の申し込みをしてから(笑)、開会式。ギャモン界ではおなじみの武宮先生がダンスを踊っていてかなりびっくり。合間に一緒に来た友人と数局。僕には19路盤は大きすぎるので、9路盤や13路盤のほうが好きです。囲碁は大きさやハンデが自由自在なので、初心者に優しいゲームと言えます。その代わり、勝ち負けが分かりにくいという欠点があります。このあたりはお互いに「他人の芝生は青い」って感じなんですかね。

そのあといろんなブースを回って講座を物色。棋力ごとにいくつかのクラスに分かれて、ほぼひっきりなしにやっていたようです。やっぱりというか、僕が見た限りでは万波佳奈さんが一番人気だったかな。彼女は可愛いだけでなくて、話がとてもうまいですね。彼女に限らず、囲碁の棋士はみんな壇上に上がってもすごくハキハキしていて、話し慣れているような気がしました。将棋にも話のうまい人はたくさんいますが、負けている気がします。
ちなみに万波さんの講座は自分の実戦の解説で、僕には難しそうだったのでスルー。タイトルは忘れましたが「石のつながり方」のような講座を見ました。強くなったかは不明です(笑)小さい子どもがテキパキを解答していて感心、とこれはどこの世界でも同じですね。

どの時間でもどの棋力の人でも楽しめるように工夫されているのはすごいなと思ったのですが、一つ残念だったのは声がよく聞こえないこと。仕切りがないのでひょいっと覗けるのはいいんですが、会場のアナウンスで、先生の声が聞こえないんですよね。みんなメガホンでしゃべってたけど、声が嗄れなかったか心配です。たぶんどうするか悩んだんだと思いますが、そのせいで講座来なかった人はけっこういたんじゃないかなーと推測。客はわがままですからね(笑)

ところでこれを将棋に置き換えてみると。
たとえばA級最終日の大盤解説会は毎年大盛況で、二部屋に分かれてやっていることが多いんですが、棋力の高い人向けの解説をする部屋と、そうでないのと、分けてみるのはどうだろう。というようなことを思いました。実際にうまく棋力に合わせてできるかは難しいですが。

そうこうするうちに指導対局の抽選はハズレ。そのあと真ん中の開会式をやったステージで「マニア王決定戦」。レベル高すぎて唖然。ようはクイズなんですが、よくもまあこんなの考えたなあと。そして知ってるなあと。これは将棋でも簡単にマネできそうですけど、どうですか某教授に某マニアさん、某マニハルさん(笑)
こういうのって一歩間違うと寒い企画になりかねない気もするんですが、僕は見ていてかなり楽しめました。実際、帰りがけに囲碁・将棋チャンネルの人に「何が一番面白かったですか?」と聞かれたのでそう答えました。僕のこと知ってたのかどうか(笑)

他にも碁石つかみ取りとか、お約束のルールを全く知らなくても楽しめるコーナーもあったようです。個人的にはそういうコンセプトのものはあまり好きではないのですが、実際のところやっぱりルールを知らない人たちにも楽しさを知ってもらうことは重要でしょうね。

最後のトリが10秒リレー碁。内容はさっぱり分からないので、梅沢さんのトークを楽しむ。10秒将棋というのは悪手は出るにしても、指すだけならそんなに難しいことではありません。だからこそ、「目隠し10秒」なんて企画が出るわけです(これは大変です)。10秒+リレーというのは見たことがないので、どれぐらい大変なものなのかやってみたい気はします。
このコーナーは、いかんせん内容が分からないので、弱いなりになんとなく意味を理解しながら見たい僕には、それほど面白いものではなかったです。でも壇上の棋士の皆さんは大騒ぎしてて楽しそう(苦しそう?)でしたから、きっと企画としては成功だったと思います。

今年はAISEP日本文化祭りなど、新しいイベントに参加する機会がけっこうありました。それらは皆若い人たちが中心となって企画・運営したものばかりです。将棋・囲碁にとどまらずいろいろな分野で、既存の枠にとらわれない新しい試みが求められているということなのだろうと解釈しています。僕はそういったことを自分でやるのは得意なほうではないですが、ときには何か、関わりが持てたらと思っています。新しいことというのは苦労もありますが、ほとんど例外なく面白いものです。改めてそう思えたことは、今回の大きな収穫でした。

あと内容とは直接関係ないんですが、プロがみんなTシャツで講座やったり指導やったりしてるのが、普段そちら側の人間としては非常に新鮮な感じでした。と言うのも、スタッフ・プロみんながその日のために作ったと思われるTシャツでおそろいなんですね。若者向けのイベントなので、カジュアルな感じでとても良いと思いました。将棋祭りなんかでもスーツ姿の棋士しか見たことない人がほとんどだと思うんですが、ときにこういうのも良いのではないでしょうか。こうしたちょっとしたことが、案外新しいことだったりするものです、

もう一つの収穫は、囲碁をやると初級者の気持ちがよく分かる、ということです。僕は石を取られないようにするのは比較的得意なんですが、「取られても良い」ことが分からなかったり、あるいはシボリやウッテガエシのような、取らせて取り返したり追い詰めていったりという手をうっかりすることがよくあるようです。それを友人に言うと「将棋ならできるのに」と笑われますが、そうは言ってもそれができないから初級者なわけです。囲碁をやると弱い人が分からないことが分かるので、なんとなく指導に役立つような気がしています。だから囲碁は、あんまり強くならなくて良かったかもしれません。
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2007年07月30日

社団戦

昨日は昼前に起き、選挙をすませてから社団戦に行ってきました。

正式名称「社会人団体リーグ戦」。同じ職場でチームを組む「職団戦」とは違って、自由にチームを組んで年5回の日程に分けて戦うというユニークな団体戦です。ちなみに「社会人」とありますが学生や子どももいます。参加しやすさが売りで、年々参加チームが増えている、と聞いたことがあります。
以前から一度見に行ってみたいと思っていたのですが、なかなか機会がなく今日に至っていました。昨日初めて行ったのは、ある先輩棋士二人と話したことがきっかけでした。

曰く、「あれだけたくさんの将棋ファン(それもコアな)が集まる場所に、棋士が誰もいないというのはおかしい」と。社団戦に限らず、アマチュアの方がたくさん参加してくれている将棋大会の場に、全く足を運ばないというのは良くない、できる範囲で構わないので、ときには足を運ぶべきであろうと。そりゃそうだなあと思ったので、さっそく実行したのでした。お二人はアマチュアとの交流を大事にされていて、非常に距離が近い棋士という印象があります。

そのとき「ふらっと見に行ってみて、何か見かけない人がいるなあと、そんな目で見られるのも良い経験だよ」と冗談交じりで言われました。僕は右の脳で「たしかに自分のこと知らない人もたくさんいるるだろうなあ」と思いつつ、左の脳で「いやあ、でもいくらなんでも・・」と聞き流していました。
行ってみて、単なる冗談ではないということは理解しました。右の脳の勝利です。将棋を指すのは好きだけど、プロなんてよく知らないという人も、たしかに大勢いるのでしょうね。僕は子どもの頃広島カープの選手はけっこう知ってたので、まずはプロ棋士もそのぐらいは認知されたいものだと思いました。

ちょっと話はそれますが、先日の王座戦の一斉対局、およびLPSAのパーティーで、羽生三冠がはしごされてました。“羽生さん”が来てくれて参加したファンはさぞ喜ばれただろうし、その姿勢はいつも尊敬していますが、ああいうのを見ていると、この世界はあまりにも一部のトップ棋士に負担がかかりすぎているなあと思ってしまいます。仕方ない意味もありますが、トップ以外の棋士の立場としては、すこしでもそれを軽減できるように皆で考えるべきだと思います。そうでなくては、全体の発展は望めないでしょう。

というわけで、自分が一流棋士を目指すのはもちろんのことなのですが、そうでなくても、自分の知名度を上げる努力をしたいなあと、しみじみ思いました。認識されるということが、ファンになってもらうための第一歩であって、それは「将棋」そのものだけに限った話ではありませんので。


会場では大学の先輩・後輩はじめ、久々にお会いする方、地方から来られていて普段はなかなかお会いできない方、元奨励会員、来週初めて稽古に伺う方などなど、たくさんの知り合いにお会いできたので良かったです。大会に参加している人たちに総じて言えるのは、将棋を考えているときの表情がとても良い、ということです。本当にたくさんの真剣な表情に接して、何だか癒されました(笑)妙な話なんですが、本当です。


ただ行くのも何なので、竜王戦の優勝記念に作った夫婦扇子を持っていったのですが、これがほとんど買ってもらえませんでした。ボーっとしてても買ってもらえないよと、嫁に怒られました。たしかに、見たことない怪しげな兄チャンが座ってても、そりゃ誰も近寄らんわな・・・
モノを買ってもらうのって、想像以上に恥ずかしいんですね(^^;初めて知りました。
また脱線しますが、いま将棋連盟の販売で一日館長というのをやっていますが、これが大好評で売り上げがかなり伸びていると聞きました。やっぱり女性はすごい、とそれを聞いてとても感心しました。ちなみにLPSATシャツもけっこう売れてたみたいです。

来月の社団戦の日はちょうど僕の初の著書が出る時期とちょうど重なるので、懲りずに持って行こうと思います。また怒られそうですが(^^;何事も修業です。もし興味がありましたら、どうぞよろしくお願いします。

僕は基本的に初対面の人と話すのがとても苦手で、だいたい話かけられてもしり込みしちゃう場合が多いんですが、別に嫌がってるわけではないので、どうか見かけたら気軽に声かけてください。


会場の話に戻って、僕は3局目・4局目と2局観戦。1部が強豪ばかりなのは当然として、3部・4部もかなりレベルの高い将棋が多いのは驚きました。正直もっとメチャクチャな将棋ばかりかと思っていたのですが(笑)
一番下の4部でチームを率いていたシマケン君と「自分たちが知らないだけで、本当は将棋が強い人というのは世の中に山ほどいるのかもしれない」という話をしました。良い将棋を指す人は本当にたくさんいるんですね。何だか明るい事実に気づいたような気がしました。

戦型は、やはり大半が振飛車系の将棋。相居飛車は3割ぐらいでしょうか。内訳は半分が矢倉、残り半分がそれに類するもの(?)。けっこう多かったのが右玉です。右玉の本ってあまり見覚えがないので、出せばけっこうヒットするのでは?と思いました。ちなみに横歩取りや相掛かりは100局に1局ぐらい、角換わりは僕の見た限りでは会場中で1局だけでした。プロもこの事実は少しは気にしたほうがいいかもしれませんね。


とまあ、とりとめもなく。本当はopinionに書く内容じゃないんですが、長くなったのでこっちでupすることにしました。来月もたぶん行きます。あと、夏は各地で大会や将棋まつりが行われます。僕も仕事以外でもときどきは顔を出そうと思いますので、見かけたらぜひ遠慮なく声かけてください。


posted by daichan at 13:10| Comment(5) | TrackBack(1) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年07月09日

レスに代えて

たくさんのコメントをいただき、ありがとうございました。「論外」という言葉は良くなかったですね。すみません。

いろいろとアイデアもいただいたので、新たなエントリを立ててレスさせてもらうことにしました。


◎対局室の上限人数を上げる
この要望は何人かの方にいただきました。実は、先日の棋士会でも、そういう意見は出たように記憶しています。
僕はシステムのことは分からないので、可能なのか、難しいのか、可能だけどコストが高すぎるのか、そのあたりはよく分かりません。観戦室をたくさん作ると負荷が下がるというのも、分かるような、分からないような・・(^^;

ただ、対局室に入れなかったので見るのをやめた、という人がたくさんいるとすれば残念なことです。僕は対局室でも観戦室でも見たことがありますが、それほど大きな差はなかったように思います。

決勝のとき、ためしに両方開いてみたのですが、数十秒のタイムラグがあるようでした。コメントが少なかったりとか、何分も指し手が更新されなかったりということは、全くなかったように思います。多くの人がなんとなく、観戦室では物足りない、格が下、「のような気がしている」のではないかと思います。なので、もし対局室に入れなくても、そこで観戦をやめないでください、とお願いしておきます。


◎チャットエリアを設ける
これは、僕の書いていることに近いと思いました。ある程度他の棋士にも開放されているほうが、速度が上がってもっとおもしろくなると思うんです。


>いままで初手を見たことがありません。
 これ、実は僕も同感です。まあでも、どうせ序盤は流して見てますから、そんなに気にならないのですが。
 「おねがいします」と声が入るぐらいなら、簡単にできるかもしれませんね?


◎音声、動画
 これはけっこう大変なのではという気がします(コストとか、人手とか、負荷とか)。技術的に可能かどうかと言うより、他の要素との兼ね合いになるのではないでしょうか。
 個人的には、全部無料で流してるんですから、あまり過度な要求はちょっと・・という気もします。案外簡単にできるというのであれば、ぜひやってほしいことではあるのですが。どのぐらい大変なことなのかは、僕にはよく分かりません。


>ネットを通じて対局が行われることの最大の意義は、対局者が別々の場所にいながら将棋を指すことができる、という点にあるはずです。将棋関係者は、その特性を生かすと一体何ができるのかを、徹底的に考えてみてはいかがでしょうか。

指さない将棋ファンさんからのコメントの抜粋です。このご意見は大変参考になりました。ご本人も書かれていますが、発想の転換が素晴らしいですね。ぜひ全文に目を通してほしいコメントでした。
厚木での羽生三冠の記事を「思わぬ反響」と書きましたが、それならば当然の反響を呼んでいくことも、考えてしかるべきですね。


>終盤の一番面白いところで指し手がまとめて更新されてしまうのが残念。1手ずつ確実に更新されるような仕様を要望。

これは、おそらく大和証券杯以外のネット中継を指しているのだと思います。ただ、順位戦とか特にそうですが、深夜の秒読みの中で複数局同時にやっているわけですから、現在の更新速度はとんでもなく速いと言って良いと思います。僕はスタッフの仕事ぶりをよく知っていますが、はっきり言ってあれは神業です。誰にでもできるものではありません。
大和証券杯で突然数手進むのは、たぶん、実際にバタバタと手が進んでいるのだと思われます。僕の観戦中にもそういうことはありました。


>参加意識を持てるような仕掛けが欲しい。
これは同意です。「対抗戦のアイデア公募」というのもそのためのアイデアのひとつです。


>サービスを無料・有料とで分けて提供してはいかがでしょうか
これは、おそらくスタッフも考えているのではないかと思います。専門家を交えて、話し合ってもらいたいと思います。(僕の頭ではとうてい分かりませんからね)



最後に、反応を示してくれたブログのリンクを貼っておきます。他にも我こそはという人がいれば、名乗りをあげてください(笑)

のぺのげPart3
Logical Space
ものぐさ将棋観戦ブログ
独り言雑記ブログ
ゴキゲン日記

あと最後に、別の場所で意見をいただいたのですが、
◎メルマガを活用して宣伝してはどうか
というご意見をある人からいただきました。僕は全く真逆なのですが、その人によればメールからネットに入ってきた人、というのがけっこういるそうなのです。なるほど、と思いました。


それでは、次の企画「熟練居飛車 vs 新鋭振り飛車」は、一週あいて7月22日からです。お見逃しなく!
posted by daichan at 21:49| Comment(4) | TrackBack(0) | 意見・主張 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年07月04日

大和証券杯について

大和証券杯の公式HPはこちらです。

 先月末の棋士会で、最も大きな議題は大和証券杯のことだった。一言で言うと、もっと多くの人に見に来てもらいたいということ。最高峰の将棋はもちろんすばらしいものだし、それなりの数の人が見に来てくれているのだが、もっともっと盛り上がるためにはどうすれば良いか、活発な議論が交わされた。
 僕もいろいろとアイデアは持っているが、一人で話しすぎてもいけないのでそのときは発言しなかった。決勝戦目前のこの時期に、今後に向けてこの場でいくつか提案してみたいと思う。
 はじめにお断りしておくと、このスペースに書くことは基本的に、ファンの方を巻き込んで議論したい内容であることが多いので、「内部で発言してはどうですか」という批判は当たらないと思っている。特にこのネット棋戦に関しては、ネット上で議論百出という状態こそ好ましいと考え、このエントリを立てた次第。
 ネット上でのあるイベントが盛り上がったかどうかというのは、それについて言及する人がどのぐらいいるかが、一つの指標になるのではないかと思う。その意味では、これを読んだ人が自分のスペースで、新たに記事を書いてくれるという展開を筆者は強く望んでいる。
 敢えて誤解も批判も恐れずに書くならば、大和証券杯について、ネットに普段繋がってない人たちで議論してもあまり(全く、ではない)意味がないと思っている。「将棋の内容や結果には興味があるけれども、ネットは見ない」という人たちよりも、「棋士のブログはよく見るけれども、対局となるとちょっと」という人たちにこそ、「こうすれば見るのになあ」というようなアイデアをどんどん発信してほしい。
 また、運営側もそういった声を目にすることで、棋戦がより良いものになっていくのではないかと思う。担当する方たちは「大和証券杯」という文字が躍っている文章には、できる限り目を通してほしいと思います。


 さて、総論はこれぐらいにして、ここからは具体的な提案をいくつか。

◎局前、局後のコメントを取る
これぐらいは当たり前だと思うんですが、どうなんでしょう?特に今回は不慣れな方も多かったと思いますから、そういった感想を聞くことも非常に有意義だと思います。16人ものトップ棋士が対局したのに、ネット上で渡辺竜王の感想しか読めないのではさびしいでしょう。
最強戦終了後に始まる対抗戦第1弾では、その点ちゃんと相手に関するコメントが出ています。みなさんお行儀が良いですね(笑)勝ってからで良いので、面白いこと言ってほしいです。特に後輩諸君。

◎解説を棋士に開放する
ネットというのは時間が勝負です。僕が見ていて気になったことは、数手進んでから遅れて解説が入るケースが非常に多かったこと。テレビの解説と違って大盤で戻すというわけにいかないので、本当に一瞬の作業が要求されるはずなんですが、解説者も対局者と同じく不慣れなのは致し方ないところです。
そもそも30秒将棋で、一人の解説者では限界があります。正規の責任者は必要でしょうが、他の棋士も自由に書き込みができる状態にしておくのが良いように思います。棋士・実名に限れば、そんなに混乱もないでしょうし、観戦者の理解の助けになると思います。
それと、解説者の代打ちは論外。対局者は仕方ないとして、解説はチャットがある程度できる人であるのは前提にしてほしい。だって、それってほとんどしゃべらない人がラジオに出るようなものですよ。

◎写真を出す
僕の知る限り、順位戦のネット中継で、ファンの一番人気はこれ。あのサイトは本当に写真が充実しています。(ちなみに二番人気は食事の注文。たぶん)
どうしてトップ棋士がマウスに向かう姿が、週刊将棋や将棋世界には出ているのに、公式HPには全く出てないのか。インターネットというのは無限性が大きな特長なのですから、可能な限りUPしてほしいと思います。

◎アイデアを募る(特に対抗戦)
 対抗戦第1弾の概要が発表されています。戦型指定というのはなかなか面白いアイデアだと思います。熟練側はそうそうたるメンバーですが、プレッシャーがかかるのはむしろ若手のほうでしょう(笑)
 第2弾もあるはずですが、ぜひ今度は公募してほしい。なぜか?それは良いアイデアが欲しいというよりも、企画を考えてもらうということは、その人は興味があるということに他ならないから。その人はほぼ間違いなく、対局を見てくれるはずなのです。こちら側から発信するだけでなく、相互に発信し合えるほうが、より興味を引くもの。これは何もインターネットの世界に限ったことではないはずです。
 ちょっと考えただけでも、ついアイデアが出てきてしまう、という例は小部屋のほうで。

 と、まあとりあえずはこれぐらい。何だか平凡なことばかりですよね(笑)すぐにでもできることばかりではないでしょうか。
 このことを悪く捉えてはいけないと思います。まだまだ伸びしろがあるということなのですから。今後も多くの棋士が協力して、この新しい形態の対局を盛り上げていきたいと思っています。皆さんもぜひ見てください!

最後に改めて、公式HPはこちらです。どうぞよろしく。



<おまけ>
大和証券杯 将棋 でgoogle検索してみました。
公式HPの次に上位に来ているのは、やはりと言うべきかボナンザー渡辺竜王。

この検索でいくつか一般将棋ファンのブログをチェック。僕がよく見ている中では、
将棋雑記帳
のぺのげPart3
せんすぶろぐ
あたりが引っかかりました。

他に目を引いたのはこの記事。おそらくは思わぬ反響と言ったところでしょう。

もっといろんなブログが引っかかるかと思ったのですが、意外な結果でした。ちなみに小部屋もなぜかありません。調べてみるとこんな感じでした。これで宣伝効果があるのかどうか。
posted by daichan at 10:40| Comment(21) | TrackBack(3) | 意見・主張 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年05月31日

駒落ちあれこれ

 今週の週刊将棋の特集を読んで、目から鱗が落ちた部分がある。要約すると、「駒を落として下手を有利にしておきながら、あえて上手が先に指す(=上手を有利にする)のはなぜなのか」という疑問。「駒落ちは上手が先に指すもの」と覚えてはや20年、そんなことを疑問に感じたことは一度もなかった(と思う)のでびっくりした。たしかにもっともな疑問である。
 考えてみると将棋のハンデ戦というものにはいろいろとナゾが多い。たとえば、香落ちと角落ちの差は大きすぎないだろうか?なぜ金銀を落とす手合いは存在しないのか?そもそも駒を落とす以外のハンデは考えられないのか?・・・などなど。素朴な疑問すぎて、答えはもちろん用意していない。まだまだ実験が足りないのだろう。
 駒落ちというものは、プロにとってはあくまでも指導用のものであって、根を詰めて研究するような類のものではない。それはプロの世界がすべて平手であることが、大いに関係していると思う。たとえば公式戦に香落ちが取り入れられれば、その定跡研究は格段に進歩するだろう。方法は頭の中にはあるが、それはこの項のメインでないので書きません。実現したら面白いと思うんですけどね。ちなみにもしプロがやったら、下手勝率7割前後と予想します。アマチュア同士なら6割ぐらいでしょうか。単なる予想で、根拠は全くありません。
 こういうことを書いているのは、実際に駒落ちが、どのぐらいの差を縮めるものなのか、はっきりしていないと思っているからに他ならない。他のプロと話をした感じでは、自分は駒落ちのハンデを小さく評価するほうだということが分かった。それはたとえば、プロ同士の角落ちは下手が全勝だろうという人もいる一方で、僕は、10番に1、2番は入る手合いだと思っているから。
 それはさておき、角落ち・飛車落ちというのは定跡があまり洗練されていない。これはほとんどのプロが賛同してくれるだろうと思う。だから勝負を争うというのでなく、定跡研究という観点から、プロ同士の大駒落ちをやってみるのも面白いと思う。角落ち・飛車落ちの指導将棋を見ていると、人によって本当に教え方が違う。手合いによってコツがあるはずだが、その研究が進んでいないと感じる。
 ちなみに僕は自分なりの方法論は持っているが、それが正しいかどうかは分からない。何と言っても下手側で「実地検証」したのが15年以上前のことですからね。おそらくほとんどのプロがそういう状態ではないだろうか。
 一方洗練されているのは何と言っても二枚落ち。僕は冒頭の答えというわけではないが、「上手先手」というルールこそがこの優れた定跡を生み出したと思っている。この定跡が生まれたというだけで、「上手先手」というルールの存在価値はあると言っても過言ではないと思う。
SSZ.GIF
 図は4手目▲4六歩までの局面。あまりにも有名なこの一手は、ここで突かなければもう間に合わない。「盤上この一手」なのである。これほどぴったりした一手を僕は他の定跡では知らない。できれば初心者を卒業したすべての将棋ファンが、この定跡を勉強してほしいと願っている。この4手目に始まり、上達のあらゆるエキスが、二枚落ちの二つの定跡には含まれていると考えている。
 二枚落ち以上となると、さすがにプロ同士なら目をつぶっても勝てる差なので、プロ同士でやる意味はないだろう。ただし、指導法の研究は必要だと考えている。その話はまた来月書きたいと思います。
 駒落ちの指導法についてあれこれ考えているのは、ひとつには自分自身で駒落ちを指す機会があること。それから、先日も紹介したような、いろいろな試みをしている人がいることを知ったから。これからはプロがもっとアマチュアの中に飛び込んでいかなくてはいけない。その際、プロにできることはやっぱり第一には技術指導だと思う。その方法論を研究して、共有していくことは絶対に必要だと思うのである。
posted by daichan at 00:02| Comment(6) | TrackBack(0) | 将棋 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年04月24日

「その後の世界」を展望してみる

本稿を読む前に、できればこちらに目を通していただきたい。「コンピュータが人間より強くなってしまったとき、将棋界はどうなるか」というテーマで、かなり読み応えのある分析がなされている。小部屋のほうでも紹介したが、こういう外部の方の論考がこうして普通に出てくることが、インターネットという社会の特質なのだろう。この「その後の世界」について、いまの自分の考えを述べておきたい。
 この稿は数年後、あのときはどのように考えていたのかと振り返るときが、きっと来るだろう。それが楽しみでもあり、不安でもある。できれば明るい未来から、過去を振り返ってみたいものだと思う。

 前回書いたように、現在の僕は、近いうちに、少なくとも自分が現役でいるうちには、コンピュータに勝てなくなる日が来るだろうと考えている。そのとき将棋というものはどうなるか、プロの世界というのはどうなるのか。正直想像もつかないが、遠くない将来、

将棋を指す一般の人<プロ<ソフト

という時代が来て、そのときプロ棋士の立ち位置は、一般のファンや女流棋士と同じ側になる、という説は正鵠を得ていると感じた。プロ棋士の立場から言わせてもらえば、それは

将棋を指す一般の人<<<<<プロ<ソフト

という状態であり、そういう意味ではプロ棋士が、こと将棋に関して極めて秀でていることは間違いないのだが、問題は一般のファンの人に、そう受け取ってもらえるかということだろう。

 極めて強いプロ棋士が紡ぎだす棋譜を、楽しみにしているファンが見る。という時代は、やがて終わるのではないか。極端な言い方をすれば、僕の結論はこうだ。なぜならただ強いだけなら、ソフト同士の将棋を眺めていればいいという時代が来るわけだから。
 ただそうは言っても、現在の対局システムが、簡単になくなるとも思えない。しかし棋譜の見方、見せ方は、変わってくるような気がする。また、変えていかないと生き残れないだろうと思う。

 意識しているかどうかに関わらず、現在のプロ将棋界は「最高峰の技術」を見せるという側面が強いように思う。受け手も最高峰の戦いだからこそ、それを楽しみに見る。そこから徐々に変質して、「この人の対局だから見に行く」「この人が指しているから棋譜を見る」というような「この棋士」を見せるようになるのではないかと、僕は考えている。まあ当たり前と言えば当たり前なのだが、そういうふうに変わっていかざるを得ないように思う。それが一部のトップ棋士だけでなく、棋士一人一人に課せられていくような気がする。

 こう書いておいて、では具体的に何をすればいいのかと言うと、正直なところ良く分からない。ただ、これからは棋譜よりも棋士を前面に出していかないといけないのではないか。これは1年ほど前にある知人に言われたことだが、その意味をいまになってすこし理解できてきたような気がする。
 いまの将棋界は、対局の成績以外に、棋士個人の情報はほとんど表に出ていない。それだけ、成績が大事であり、それのみによって序列づけられた世界だったということではないだろうか。だがそれが本当に「仲間内の知恵比べの場」(上記リンク先その5より)になってしまうとき、他のところにも価値を求めていく必要があるのではないか。そういう危機感を、すくなくとも僕は持っている。
 いますぐにでもできることの一つとして、例えばもうすこし棋士の盤外の活動(これは何も「普及」に限らない)を表に出す努力を、連盟が組織として行っていくべきではないだろうか。棋士の価値を高める、あるいは宣伝していく努力が、もっと必要ではないかと強く感じる。

 誤解のないように付け加えておくが、僕はだから将棋が弱くてもいいだとか、良い棋譜にたいした価値はないだとか、そういうことを書いているのではない。棋士にとって将棋の技術を磨くことは何よりも大事で、それはこれからもそうだろう。技術の高さは、プロとしての生命線であり続けるべきだと思う。
 一方で、ただそれだけではプロと呼ぶに足りないと見なされる、そういう時代がすぐそこまで来ているとも感じる。今後の棋士は高い技術を持っていることを前提に、それを生かして将棋ファンのために何ができるか、そういう側面が問われるようになるのだろうと思う。

 僕たち棋士はみんな将棋バカだから、はっきり言って将棋以外のことは基本的に得意ではない。まあそれでもなんとかなってきたわけだが、どうも今後はそれではダメらしい。だから何とかしなきゃいけない。いまの自分の気持ちを大雑把に書くと、まあこんな感じになる。
 でも別にそんなに悲観はしていない。一芸に秀でた人がこれほどそろっていて、船が簡単に沈むとは思えないからだ。ただ、その能力を生かして何かやるには、どうしても外部の知恵が必要になるだろうと思う。仲間内のことは仲間内だけでやったほうがいい場合も多いだろうが、相手がいることに関してはまた別だろうから。
 自分はそのための耳と口の役割になろうと、最近はそんなことを考えている。以前も書いたが、棋士も得意分野を持つ必要があるだろう。それはどんな小さな組織でもやっている「役割分担」ということに他ならない。そうしていろいろな角度から将棋ファンにアプローチしていければ、きっとこの世界の未来は明るいと信じている。


今回はリンク先を受けて、プロ棋界について展望してみた。もうひとつ、将棋というゲームそのもの(の変質)についても書いてみようと思ったのだが、それはまたの機会にします。
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2007年03月22日

コンピュータ将棋について

 いやはや驚いた。ボナンザの強さに、である。正直言ってあそこまでとは思わなかった。将棋の「強さ」というのはある程度の棋力がないと分からないものだろうから、多くの方は実感はわかないと思う。しかし一方で、多くの関係者は本当に驚いたに違いない。
 正直なところ僕の最近の関心は、自分の昇級と女流棋士の問題がほとんどで、このイベントのことはすっかり忘れていた。世間の関心を集めるのも、いますこし先のことだと思っていた。しかしいざ将棋を見て、いま書いておかないと機会を逸すると思ったので、たいした知識もないのにこうして取り急ぎ書いている次第。今回はプロ棋士の視点ではあるものの、一方では全くの素人の見解でもあるということを念頭に置いて読んでほしい。


 僕が奨励会初段前後の、中学生の頃のことだったと思うが、チェスの世界チャンピオン・カスパロフがディープ・ブルーというコンピュータに負けた。僕にとっては遠い海の向こうの出来事でしかなかったが、おそらくチェスの世界にとっては大きな衝撃だっただろうと思う。その後人間とコンピュータの戦いが報じられた記憶はないが、この一事をもってコンピュータがチェスの世界で人間を凌駕したというのはいささか疑問ではある。(理由はのちほど)
 ただ、いまは当時と比べるとハードの性能が格段に進歩しているから、おそらく世界チャンピオンよりもコンピュータのほうが強いのだろうと、勝手に想像している。実際のところどの程度の差があるのかは、プロ棋士としては若干興味のあるところである。

 さて、その頃何かで読んだ文章で、このようなものがあった。
「コンピュータというのはおしなべて、人間が予想するよりも早く、目標に到達するものだ」
 古い記憶なので不正確かもしれないが、だいたいこんな内容だったと思う。その頃のコンピュータ将棋というのはみなさんご存知の通りまだ弱く、プロレベルに達するのは当分先だと、おそらくほとんどの人が考えていた。まさか10年ほどでこんなに進歩するとは思ってなかったのではなかろうか。僕自身は「自分が生きてるうちには抜かれるんじゃないかなあ」という程度の予想だった。そして結果はと言うと、将棋のコンピュータは、多くの人の予想よりずっと早いペースで進化したのである。他の分野に関しては知らないが、少なくとも将棋に関する限り、上の説は正しかったようだ。

 その後の僕の予想は、大学に入る頃には「自分が棋力が落ち始める頃には勝てなくなりそうだ」となり、しばらくすると「どうも近いうちに負けるかもしれない」に変わった。いまは、もし自分が負けても全く驚かない。少なくとも先日の将棋を見る限り、渡辺竜王が負けてもなんら不思議はなかった。今回はたまたま(という言い方は語弊があるが)人間が勝ったが、繰り返し指せばトッププロと言えども確実に負ける。だいたい24レーティング2800点といったら僕より上だ(笑)。だから渡辺君にぐらい勝ったって当然だ。というのは冗談が過ぎるとしても、竜王と言えども全勝はありえない。そういうレベルに達している。


 これまた出典がなくて恐縮だが、いまコンピュータ将棋の世界では、トッププロに追いつく時期として「2012年」という説が有力だと、すこし前に聞いたことがある。だとすればわずか5年先のことであり、かつ、上の法則によればそれよりも早いわけだから、5年ももたないということになる。あれだけの実力を見せられると、たしかにそうかもしれないなと僕は思う。実際のところどうなるのかは分からないが、今後もボナンザがいっそう注目を集めることは間違いない。

 さて、コンピュータvs人間という構図は、たしかに多くの人の興味を引くものではあると思うが、棋士としてはすこし残念な部分もある。それは、一度でもコンピュータが勝ってしまうと、そこでこのイベントはおそらくおしまいになってしまうという点だ。せっかくこれだけの観客の興味を引くイベントなのだから、何か工夫をして、しばらくの間競合していけないものかと思う。
 将棋に限らず多くのゲームがそうだと思うが、プロレベルになると、いつも勝つということは難しい、と言うより不可能である。何番かやれば絶対に負ける。だから、一番負けたからと言って、即終わりにしないでほしいというのが僕の願いだ。ニュースとしてはそこで終わりなのかもしれないが、将棋のイベントとしては、それで終わりにする必要はないような気がする。

 例えが適切かどうかわからないが、かつて女流棋士やアマチュアも、A級棋士やタイトル経験者を倒したこともあったし、立て続けに2,3番プロに勝ったこともあった。だからと言って、プロレベルに追いついたとか、あるいは凌駕したとか、そういうことにならないのは明らかだろう。その事実は、コンピュータ将棋でも同じではないだろうか。(ついでに言うと、チェスでも同じ)
 もちろんコンピュータには、「ほぼ絶対的に、弱くなることはない」という決定的なアドバンテージがあるから、先の例とははっきり異なる、ということは言えるだろう。いつかは間違いなく人間を凌駕してしまう。さらにその先どうなるかは分からないが、たぶんそのときコンピュータは、上達のために欠かせないものになるのだろうと思う。

 ただ僕の予想では、コンピュータが初めてプロに「1局」勝った日から、数年の間は競合関係が続くような気がしている。根拠は特にないのだが、「1番入った」と「追いついた」と「追い越した」はそれぞれ、ずいぶん差があるというのが僕の、20年将棋を指してきた中での実感だからだ。それがコンピュータにも当てはまるかどうかは知らないが、負けた翌年に再挑戦して最強コンピュータに見事リベンジ、そんな人間の姿も僕は見てみたいのである。門外漢の戯言かもしれないが、コンピュータ将棋の関係者の皆様には、ぜひ「人間が負けたそのあと」のことも、考えていただきたいと思う。
 そしてもちろん、我々プロの側も覚悟しておかなくてはならない。いま考えておかないと、もう間に合わなくなる時期に来ているように思う。とりあえず僕は今日、初めてボナンザをダウンロードしました。これから彼との共存について、考えていきたいと思います。
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2007年02月09日

テレビ棋戦の感想戦について

 2月は銀河戦で都合3度、テレビに出させていただいています。小部屋のほうでは収録日と放映日の時差の問題について触れ、いくつかご意見をいただきました。結論としては、「結果を知らないほうが楽しめる」という意見が多かったようです。
 この問題も大切なことですが、実はテレビ棋戦に関しては以前から、より大きな問題だと思っていることがありました。それは「感想戦」です。ちょうど良い機会なので、今月はテレビ棋戦の感想戦について述べてみたいと思います。


 将棋のテレビ放映において一番難しいのは、いつ終わるか、どのぐらい時間がかかるかが、わからないことではないかと思う。現在将棋界のビッグタイトルである竜王戦・名人戦では衛星放送による中継が行われているが、終局前後の時間帯を映してほしいというファンの声はいつも耳にする。しかしそれがいつになるかというのは、1時間程度の幅をもってしても正確に予想するのは難しい。そういうわけで、最終的にはダイジェストに頼るのは仕方ない意味があるのだろうと思う。
 現在行われているNHK杯・銀河戦も、おそらくそういう事情からだろうと思うが、すべて録画であり、これを生放送でやるのは難しいのだろうと思う。一方、生放送でないことによって、工夫できる部分もあるのではないか?と僕は感じている。ちょうど、時間がたってから掲載される観戦記と同じように。それが「感想戦」の部分なのである。

 感想戦は何のためにやるのか?と言われると、棋士にとっては何よりも勉強のためであろうと思う。自分の指し手のどこが悪かったのか、研究することはプロアマ問わず、上達のためにとても大切なことである。同時に、その将棋のポイントとなる部分はどこだったのか、どの手が最終的に敗着になってしまったのか、そうしたことが検討によって明らかになっていく。だからたとえば観戦記を書く人にとっても、感想戦は最も見逃せない部分になる。
 ではテレビ放映においてはどうだろうか?と考えたとき、残念ながら現在は、放送時間の穴埋めに過ぎなくなっているように思う。これを解決すれば、もっと番組を楽しめるファンの人は増えるのではないだろうか。

 番組を何度かでも見たことがある人ならお分かりだと思うが、感想戦はいつも放映されているわけではない。対局を終わりまで流して、時間が余った場合のみ、その一部が放映される。僕の印象では、5〜10分ほど残るケースが多いような気がするが、時間がない場合もけっこうある。あくまでもオマケなのである。まあオマケなのは当然としても、それがいつも「感想戦の途中ですが、そろそろお時間となりました」と尻切れトンボになってしまうのは、見ていて残念でならない。

 前述したように感想戦は、その将棋のポイントが明らかになっていく場である。これを、見ている人に届けない手はないと思うのだがどうだろうか。
 具体的には、まず感想戦は基本的に全部収録しておいて、できればポイントの部分をうまく編集して流すようにする。これだけでもずいぶん違うと思う。ただ、プロ同士の将棋の会話というのは、お互いの了解のもとにどんどん進んでいくので、見ているほうにはものすごく難しい。終局後なのだから、見ている人を意識してしゃべるべきだという気もするが、現実に対局直後に、そこまで気を遣うというのはけっこう難しい。

 というわけでもうひとつ。感想戦の後に、その感想戦のまとめを、解説者が大盤で簡単に解説する。2分もあれば十分だと思うが、その枠はあらかじめ用意しておいて、感想戦が放映される・されないに関わらず行う。こうすれば、見ている人に一局のポイントが分かりやすく伝えられて良いのではないかと思う。消化不良な感想戦で終わるよりも、番組がずっと引き締まるのではないだろうか。

 そもそも解説者というのは、対局者が何を考えているのか、何を考えて指したのかを伝えるのが重要な役割だと僕は考えている。これすなわち「翻訳者」なのである。感想戦というのはそのままでは難しいから、やはり翻訳が必要であるというのは、極めて自然な話であろうと思う。

 実はいまでも銀河戦のほうでは、これと似たようなことがときどきある(NHKのほうは解説したことがないのでわからない)。それは、時間が微妙に数分残った場合で、この場合は解説者は感想戦に加わらず、その1局のポイントを口頭でしゃべって終わりになる。で、それはなぜか感想戦の前に撮ってしまうらしい。僕が上で書いたのは、これを感想戦の後にすれば、そしてそれを常にやればいいのではないかという、ただそれだけの話なのである。たったそれだけだが、そうすれば対局者は何を思ってその手を指したのかとか、そういう情報を伝えることができる。これが大きいのではないかと、以前から思っていたのでこの機会に書いてみた次第です。
posted by daichan at 12:45| Comment(8) | TrackBack(1) | 意見・主張 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月07日

観戦記について―引用ふたつ

まとめに変えて、今回のきっかけとなった梅田望夫さんのブログから、二つ引用しておきます。

(前略)分量の多さというのはとても大切な要素なのだ。将棋がそんなに強くない人でも、このくらいの字数をかけて丁寧に手の意味を解説してもらえれば、ちゃんと将棋の魅力、楽しさというのは伝達可能なのである。

 これは主に、純粋に指し手の解説のことを指しているものと解釈しました。かいつまんで説明すればするほど、棋力の低い人にもちゃんと伝わる、ということなのだと思います。
 それはその通りだと思いますが、僕自身は、観戦記の面白さそのものと、分量の多さというのは必ずしも関係ない、少なくとも比例するものではないと考えています。極端な話、指し手の解説が一切なくても、力のある書き手ならば「読ませる」ものを書けると信じています。それはもはや「その将棋の観戦記」という枠を超えて、その書き手による一つの「作品」のようなものなのかもしれませんが、それはそれで一つのあり方ではないかと思います。

 将棋ファンを分ける一つの要素として、「指し手の詳しい解説を望む層」と「そうでない層」というものがあると思います。他に「棋力」(高い・低い)「見るor指す」などいくつかの要素があるでしょうが、この要素は中でも最も厄介なものだと思います。「あちらを立てればこちらが立たず」という状態になりやすいからです。余談ですが、これは特に大盤解説会で悩まされる点だと思います。
 ブログを読む限り、梅田さんは「指し手の詳しい解説を望む層」であろうと想像します。そして、現在の新聞の観戦記欄では、そちら側の層を満足させるのは、なかなか難しいだろうということが分かります。「初段くらい」というのは将棋ファン全体の中では、決して低い棋力ではないのですから。とすれば、新聞観戦記は、主に「そうでない層」の方へのアプローチを念頭に置くべきなのかもしれません。もし読者層として「新聞の読者一般」を念頭に置くならば、それは理にかなったことと言えるでしょう。


 そういう長文の枠さえ用意すれば、若い棋士の中からも素晴らしい観戦記を書く人材も育つだろうし、「将棋の魅力」はより広く伝達されていくことだろう。この「長い観戦記」を土台に、その周囲に「Wisdom of Crowds」(群集の叡智)を集めることだってネット上なら可能である。

 これは実現の難しさはともかくとして、大筋においては大賛成です。多様な見解、多様な情報が発信されることで、内容の向上が期待できるというのがその理由の一つです。特に「人材が育つ」という点は見逃せないと思います。現状においてはそうした土壌は極めて少ないと思います。
 また、「スペースに制限がない」ことから、多様な層への別々のアプローチが可能になる、ということも期待できそうです。簡単な例を挙げると、初級者向け・中級者向け・上級者向け・・と棋力に応じた解説が可能になるかもしれない、ということです。そうすればより多くのファン層に、その将棋について理解してもらうことができます。もちろんその分労力もかかるわけですが。

 ネットの話になるとどうしても飛躍してしまいがちです。自分があまり詳しくないことと、それでいてその無限にも思える可能性にワクワクしてしまうせいでしょうか。

 梅田さんがコメントを寄せて下さった通り、観戦記は「外の世界との唯一の接点」ですから、ファンの方には読んでほしいのはもちろん、積極的に提言してほしいと思っています。「こういうふうにしてほしい」という一つ一つの要望・提案が、大きな力になるのではないかと思っています。
 最近こんなブログを見つけました(と言うか、トラバしていただいたんですが)
 どういう方かは存じませんが、この観戦記に関する部分は、非常にうなづかされるものでした。これからの時代の「読者の声」と言うのは、こういうふうにネット上からも拾っていかないといけないのかもしれませんね。
posted by daichan at 00:37| Comment(3) | TrackBack(1) | 意見・主張 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする